1000億のニューロンを含む人間の脳の物理的な成長は、3歳までに約85%も成長するという。
その部分は、学習と思考の基礎となる部分で、脳の成長と言葉環境は関係していることも科学的に証明されている。
つまり、脳にとって最初の3年間に経験する過程は、重要で不可欠なものであり、言葉の基礎的な部分を覚える時期でもある。
この3年間に聞いた「単語数」がのちに子供の能力に関係していることを明らかにした2人の学者がいた。
語りかけの研究「3000万語の格差」
トッド・リズリーとベティ・ハートの研究で、社会経済レベルの異なる42の家庭の子供たちを、生後約9か月から3歳まで、毎月1回1時間の家庭内の会話の録音と観察した内容をすべて記録しました。
専門職の13家庭、経済レベル中度の10家庭、低い13家庭、生活保護を受けている6家庭を対象に調べました。
どんな違いがあったのかというと、社会経済レベルで明白な違いがあり、言葉の数に圧倒的な差がありました。
子供たちが聞く言葉の数は、専門職の家庭で1時間に平均2000語なのに対し、生活保護の家庭では約600語という差がありました。
子供に対する親の反応にも違いがあり、最も高い層の親は1時間に約250回子供に反応していたのに対し、最下層の親は50回以下で、5倍以上の差があった。
特に深刻だったのが言葉による承認の差で、最も高い層の子供たちは1時間に40回の承認の言葉を聞いていたのに対し、生活保護の子供たちは4回で、その差は10倍にもなりました。
詳しく研究結果を見てみると、このようになります。
生後13か月から36か月に1時間あたりに聞く発語
- 専門職の家庭 487語
- 労働者の家庭 301語
- 生活保護の家庭 178語
1年間に換算すると
- 専門職の家庭 1100万語
- 生活保護の家庭 300万語
- その差は 800万語
子供たちが4歳になるまでに聞く言葉の数
- 専門職の家庭 4500万語
- 生活保護の家庭 1300万語
- その差は 3200万語
子供たちが3歳の時点で話す語彙数
- 専門職の家庭の子供 1116語
- 生活保護の家庭の子供 525語
- その差は 591語
子供たちの能力の違い
- IQ
- 語彙力
- 言語処理速度
- 学ぶ能力
- 成し遂げる力
- 成功する能力
- 可能性を最大に発揮する能力
研究からわかったこと
子供が学ぶ能力は、生後数年間に聞いた言葉の数に比例していたことがわかった。
学ぶ能力は、社会経済的なレベルと一見関係がありそうだが、専門職のグループと生活保護のグループの中でも話す言葉の量にバラつきがあったため、それぞれのレベルの中で比べると「社会経済レベルが高い=言葉の数が多い」という表面上の相関はなくなる。
つまり、子供の学ぶ能力は、親の社会経済レベルではなく、初期の言葉環境によるもので「言葉の数とどのように親が子供に語りかけたか」に関係していたという。
研究期間中に親が子供に話す言葉の数は、常に話す親の場合は子供が話すようになると増えていったが、あまり話さない親の場合は、子供が話すようになっても増えなかった。
話しかける言葉が多いほど、子供の語彙は増え、3歳の時点とその後のIQテストの点数も高かった。
言葉の数以外にも関係していたのが、親の命令や禁止の言葉と関係があり、命令や禁止は子供が言葉を学習するのを阻害していたこともわかった。
つまり、親が「ダメ、ストップ、やめなさい」といった言葉を使うと子供の学習を抑える結果になるという。
それ以外にも2つ、言葉の学習とIQに影響している要因があった。
1つ目は、子どもが聞いている語彙の豊かさ
2つ目は、家族の会話の習慣
語彙も豊かでないと、3歳時の到達度は低く、夫婦の会話が少ないと子供もあまり話さないという結果が得られたという。
最初の研究が終わってから6年後、デイル・ウォーカー教授と共に子供たちをもう一度調べたところ、3歳までに聞いた言葉の量が、9歳から10歳の言語スキル、学校のテストの点数と相関していたことを確認できた。
つまり、何が重要なのか?
言葉環境の重要性を最初に見つけたハートとリズリーの研究は、かなりの数の引用をされる論文となった。
2人が見つけたところによれば「言葉の数とどのように親が子供に語りかけるか」が重要だという。
ただ単に3000万回子供に「静かにしなさい」と言っても、子供の能力は育たないと誰もが想像できる。
つまり、言葉の数とどのように語りかけるかが重要なので、語りかけるポイントをまとめておくことにする。
- 言葉の豊かさ
- 言葉の複雑さ
- 言葉の多様性
- 肯定的なフィードバック
言葉が豊かな家庭の子供が聞いていたのは、肯定的で子供を応援するようなやりとりのある言葉でした。
では、親も言葉が豊かになるように語彙を勉強した方がいいのかというと、そこまで心配しなくても大丈夫みたいです。
大事なのは、子供と話している時間で、親がたくさん話すほど、語彙も自然と豊かになっていくので、子供と話す時間を増やすことを意識すればいいという。
もう一つ、肯定的なフィードバックも重要な要素となってくる。
専門職の家庭と生活保護の家庭を比べると、専門職の家庭の方が圧倒的に肯定的な言葉が多いのに対し、生活保護の家庭は、否定や禁止する言葉の割合が多くなっていたという。
肯定的や応援する言葉と、否定や禁止する言葉を1年間で比べると、以下のようになる。
1年間の違い | 肯定的・応援 | 否定・禁止 |
---|---|---|
専門職の家庭 | 16万6000回 | 2万6000回 |
労働者の家庭 | 6万2000回 | 3万6000回 |
生活保護の家庭 | 2万6000回 | 5万7000回 |
4歳の時点での差はこのようになる。
4歳の時点 | 肯定的・応援 | 否定・禁止 |
---|---|---|
専門職の家庭 | 66万4000回 | 10万4000回 |
生活保護の家庭 | 10万4000回 | 22万8000回 |
専門職の家庭では肯定的な言葉が多く、否定的な言葉が少ないのに対し、生活保護の家庭では肯定的な言葉の2倍もの否定的な言葉を語りかけていた。
このような言葉環境の差が子供たちに影響を与えることになるという。
簡単にまとめると、3歳までに「子供ともっと話す時間を増やすこと」と「肯定的なフィードバックを意識すること」が大切なのだとか。
こうした温かいやりとりのある環境が、アタッチメントを形成したり、ストレス反応システムを構築したりするのにもつながっているのだろうと思う。
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